名札・ネームプレートにまつわるショートストーリーvol.3
名札・ネームプレートにまつわる、ショート・ショート。今回は、名札を落とした、女の子の思い出を題材にしたストーリー。「言えなかったありがとうと名札」匿名のOLさんからの投稿です。
言えなかった“ありがとう”と“名札”
だれにでもある、ローティーンのころの淡い思い出。
あなたの心の片隅にも、似たような経験はありませんか…?
小学生のころ、名札をなくしたことがある。
なくしたことに気づいたのは、家に帰ってからだった。
名札は服に穴をあけて、ピンでつけているから、家についたら外すように。
という母のいいつけにならって、私はその日の服につけていた名札を外そうとした。
あれ?“名札”がない。
ランドセルの中を見ても、連絡袋の中を見ても、
ない。
どうせズボラな私のこときっとどこかにしまいこんだか、
学校に置いてきたか。
まー明日にしよう。
と思って、たいして気にもとめていなかった。
と、そこに玄関からがチャガチャ、ゴソゴソ聞こえた。
仕事をしている母は夕方ごろに帰ってくる。
いつもは弟と留守番をしているのだけれど、その日は友だちの家に遊びに行っていた。
一人ぼっちの留守番。
私は怖がりなのだ。
玄関からの音は誰かがドアポケットに何かを入れている音だった。
こわい。それだけでこわい。
もう、「こわい」という言葉が怖い。
私はしばらく玄関のドアを見つめていた。
とりあえずテレビをつけよう。
でも家の中に誰かがいるのがわかってしまう。
それにたまたまついた場面にこわい映画のCMとかこわい話をしていたらどうしよう。
私は八方ふさがりになった。
カチャン。
という音とともに静かになった。
それはポストに何かはいった音。
なにが入れられたのか。
確かめるか?確かめないのか?
こころの中で、また葛藤が始まる。
留守番という責任感。
原因がわかれば怖くなくなる。
私はそっとドアポストをあけてみた。
そこには私の名札が入っていた。
名札を届けてくれたのは。
「コレ… 道で拾った」
次の日、男子に声をかけられた。
それは私ととても仲良しの男子で、ちょっと好きな男子だった。
どうやら名札を届けてくれたのは彼だったらしい。
でも私は昨日彼と一緒に下校したのに、なんでそのとき渡してくれなかったのだろう。
だって、私の家は彼の家の通り道にあるのだ。
でもまぁ名札見つかったし、いいか。
名札と共にある、小学生のころの思い出…
名札と小学生の頃の素朴な思い出。
ただその話を聞いた後、届けられた名札は特別な名札になった。
今頃だけど、名札を届けてくれてありがとう。